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長野地方裁判所 平成7年(行ウ)4号 判決

長野県塩尻市大字塩尻町七一九番地一

原告

有賀次盂

右訴訟代理人弁護士

毛利正道

長野県松本市城西二丁目一番二〇号

被告

松本税務署長 小野博通

右指定代理人

本田敦子

須藤哲右

谷口悟

塚田良治

清水俊一

櫻井勉

山田文恵

主文

一  本件訴えのうち、総所得金額三〇二万六〇〇〇円、納付すべき税額七万一四〇〇円を超えない部分の更正の取消しを求める部分を却下し、原告のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成五年一一月三〇日付けでした原告の平成四年分(以下「本件係争年分」という。)の所得税の更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下、本件更正と右過少申告加算税賦課決定を合わせて「本件各決定」という。)を取消す。

第二事案の概要

本件は、肩書所在地において大工工事業を営む原告が本件係争年分の所得税についていわゆる白色申告書による確定申告をしたところ、被告が原告の取引先に対する調査等により収入金額を捕捉した上、推計によって得られた同業者の平均所得率に基づき原告の事業所得を算出し、本件各決定を行ったことから、原告が主として収入金額及び推計の合理性を争って、本件各決定の取消しを求める事案である。

一  本件課税処分の経緯

原告の本件係争年分の所得税の確定申告、課税処分及び不服申立ての経緯は、別表一記載のとおりである(当事者間に争いがない。)。

二  本件各決定の課税根拠に関する被告の主張

1  本件係争年分の総所得金額及びその算出根拠

被告が本訴において主張する原告の本件係争年分の総所得(事業所得)金額及びその算出根拠は次のとおりである(なお、右のうち、当事者間に争いのない事実及び証拠により容易似認められる事実は各項の括弧内に記載のとおりである。)。

(一) 収入金額 四八八一万円

右金額は、原告が大工工事業によって得た本件係争年分の収入のうち被告が把握し得た金額の合計であり、内訳(取引先別の収入金額)は次のとおりである(そのうち、(2)は乙第四号証により認められ、(3)及び(4)は当事者間に争いがない。)。

(1) 小松美佐男 三〇〇〇万円

(2) 有限会社リゾートホテル穂高 一七〇〇万円

(3) 中沢栄治 八五万円

(4) 塩尻大門一番町市街地再開発組合 九六万円

(二) 事業専従者控除額控除前の所得金額 八二五万八六五二円

右金額は、前記(一)の収入金額に、後記四4(一)の方法により抽出した同業者(以下「比準同業者」という。)の収入金額に占める所得金額(いわゆる青色申告の特典控除額控除前の収入金額から売上原価の額及び経費の額を控除した所得金額をいう。)の割合(以下「所得率」という。)の平均値(以下「平均所得率」という。)である〇・一六九二を乗じて算出した金額である。

(三) 事業所得の金額 八二五万八六五二円

原告には所得税法五七条三項に規定する事業専従者がいない(当事者間に争いがない。)ので、右(二)の金額が事業所得の金額となる。

2  本件更正の適法性

本件更正に係る原告の総所得金額は、前記記載の総所得金額の範囲内であるから、本件更正は適法である。

3  本件過少申告加算税賦課決定の適法性

被告は、本件更正に伴い原告が新たに納付すべきこととなった所得税額(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後の金額)を基礎として同法六五条一項、二項の規定に基づき計算した過少申告加算税を賦課決定したものであるから、右決定は適法である。

三  争点及び当事者の主張

1  被告の本案前の申立て

原告は、本件更正の全部の取消しを求めているけれども、確定申告額を超えない部分については、自ら納税義務を確定させているので、更正の請求(国税通則法二三条)を経由せずに取消しを求めるのは、訴えの利益を欠くものであり、したがって、本件訴えのうち、総所得金額三〇二万六〇〇〇円、納付すべき税額七万一四〇〇円を超えない部分の取消しを求める部分は、不適法として却下されるべきである。

2  小松美佐男宅新築工事による収入金額

(被告の主張)

原告と小松美佐男(以下「小松」という。)が、平成四年四月二〇日付けで交わした同人宅新築工事(以下「本件請負工事」という。)に係る契約書(乙第三号証添付のもの。以下「本件請負契約書」という。)には、代金額として三〇〇〇万円と記載されていること、小松が被告からの照会に対して回答した書面(乙第一〇号証。以下「取引回答書」という。)には、本件請負契約金額が三〇〇〇万円であり、それを五回に分けて現金で支払った旨記載されていること、小松が被告からの照会書(「新(増・改)築された家屋、購入された建売住宅・マンション等についてのお尋ね」と題する書面)に対して回答した書面(乙第一一号証。以下「お尋ね回答書」という。)には、本件請負契約金額が三〇〇〇万円で、それを四回に分けて現金で支払った旨記載されていること、以上の各書面はすべて本件訴訟前に作成されたものであり、その記載金額も一貫していること等の諸事情を総合的に考慮すれば、小松からの収入金額が三〇〇〇万円であることは明らかである。

(原告の主張)

原告は、以前から取引のあった小松との間で、平成三年八月ころから平成四年二月ころにかけて、同人宅新築工事のうち、大工工事の部分を代金一八〇〇万円で請け負う旨の契約を締結し、その際、大工工事以外の建具・塗装・電気・建材・水道・木材調達の各工事については、小松又は他の業者が行う旨の合意をしたため、大工工事に係る部分の請負代金として一八〇〇万円のみ受領したのであり、これが同人からの収入金額となる。あお、原告が請負代金額を三〇〇〇万円とする本件請負契約書に署名したのは、銀行からの借入れに利用するためという小松からの依頼に応じたにすぎないのであり、実際に代金額三〇〇〇万円の請負契約を締結したものではない。

3  推計の必要性

(被告の主張)

原告は、平成五年四月二日以降、被告所部職員からの再三にわたる調査協力要請に対し、帳簿書類はないとか、自分の方では何にも話せないので税務署側で調べてほしいなどと行って、非協力的な態度に終始し、結局、帳簿書類等を提示しなかった。そこで、被告は、このような状況にあっては原告の本件係争分の所得金額を実額で把握することは不可能であると判断し、やむなく所得税法一五六条の規定に基づき、原告の取引先等に対する調査によって把握した取引金額を基礎として推計により所得金額を算出して本件更正を行ったものである。

4  推計の合理性

(被告の主張)

被告は、原告の取引先を調査することによって、可能な限りで原告の本件係争年分における収入金額を把握し、その合計額に、比準同業者の平均所得率を乗じて事業所得の金額を算出した。

右比準同業者については、関東信越国税局長が、原告と同じ塩尻市(納税地)に住所を有し、原告と同種の「大工工事業」又は「木造建築工事業」を営む個人事業者について、〈1〉青色申告により所得税の申告をしている者であること、〈2〉他の業種を兼業していなかった者であること、〈3〉本件係争年分の収入金額が二四四〇万五〇〇〇円以上九七六二万円以下の範囲内にある者であること、〈4〉年を通じて大工工事業又は木造建築工事業を営んでいた者であること、〈5〉災害等により経営状態が異常であるとか、処分について係争状態(更正又は決定処分を受け、かつ、国税通則法・行政事件訴訟法の規定による当該処分についての不服申立期間・出訴期間が経過しておらず、又は、当該処分に対して不服申立若しくは訴訟を提起して審理中であること)にあるというような事情がない者であること、以上の抽出基準(以下、これを「本件抽出基準」と総称し、各別に掲記するときはその番号に従い「〈1〉の基準」というように表示する。)を設け、被告に対し、その基準のいずれにも該当する者の報告を求めた。

そして、被告が、本件抽出基準に基づき比準同業者を調査したところ、その結果は、別表二の大工工事業の同業者調査表(平成四年分)のとおりであった。

右のとおりであるから、比準同業者の抽出過程に被告の恣意が介在する余地はなく、また、抽出された比準同業者はいずれも原告と業種が同一であり、その事業規模も類似している青色申告者であるから、これらの平均所得率を適用して事業所得の金額を算出した本件推計は合理的なものである。

第三争点に対する判断

一  争点1(本案前の被告の主張)について

原告は、本件係争年分の総所得金額及び納付すべき金額のうち、自己の確定申告額を超えない部分についても取消しを求めているが、申告納税方式の下においては原則として納税義務者の申告により税額が確定するので(国税通則法一六条一項一号)、他に特段の事情がない限り、修正申告及び更正の請求という手続以外の方法で申告内容と異なる主張をすることは許されないと解されるところ、原告から更正の請求をした事実の主張・立証はなく、かつ、更正の請求以外の方法で申告内容の訂正を求めることを相当とする特段の事情の主張・立証もないのであるから、原告が自己の確定申告額を超えない部分の取消しを求めることは不適当であるといわざるを得ない。

二  争点2(小松からの収入金額)について

1  証拠(乙第三号証、第七号証、第一〇、第一一号証、第一三号証、第一四号証の三、第一五号証、第一七ないし第二〇号証、証人小松美佐男、同馬場忠則)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

(一) 小松は、約二六年前から木製建具の製造業を営み、二〇年以上前から同人の妹の夫である原告が請け負う建築工事のうち木製建具の部分の下請けをしてきたが、自宅の改築を計画し、平成四年四月二〇日ころ、原告との間で、注文者=小松、請負人=原告、請負代金=三〇〇〇万円とする本件請負契約を締結した。

(二) 本件請負工事は、同年四月ころ着手され、同年一〇月ころほぼ完成し、同月中には右新築家屋に係る所有権保存登記(小松の持分が五分の三、その妻の持分が五分の二の共有登記)が経由された。その床面積は一、二階合計約二一九・九七平方メートル(約六七坪)であり、小松及びその家族は同年一二月これに入居した。

(三) 小松から原告への請負代金の支払は、同年四月から一一月までの間に五回に分けて行われ、その都度原告から小松に領収書が交付された。

小松は、右の資金に充てるために、同年一〇月ころ八十二銀行塩尻支店から一五〇〇万円の融資を受けたほか、自分や妻の預貯金から約一〇〇〇万円を払い戻し、妻の実家から約五〇〇万円借り入れるなどした。

(四) 小松は、入居後間もないころ、新築家屋の調査に訪れた塩尻市の職員に対し、本件請負代金総額が三〇〇〇万円である旨説明した。

(五) 松本税務署は、平成五年六月ころ、小松に宛てて、原告に対する税務調査のため小松宅の建築費用(契約金額及びその支払年月日・支払金額・支払方法等)についての取引照会書を郵送したところ、小松は、その回答欄に、契約金額が三〇〇〇万円であること、その支払の内訳は、平成四年四月三〇日に八〇〇万円、同年七月三一日に七八〇万円、同年八月三〇日に二〇〇万円、同年一〇月三〇日に一〇〇〇万円、同年一一月三〇日に二二〇万円であることなどを記載し、平成五年六月七日にこの取引回答書を松本税務署に提出した。

(六) また、松本税務署は、同年九月ころ、小松に対し、「新(増・改)築された家屋、購入された建売住宅・マンション等についてのお尋ね」と題する書面を郵送したところ、小松は、そのころ自ら記入しあるいは同人方の内情を知る何者かに代筆させるなどして、原告に発注した本件請負工事の契約金額は三〇〇〇万円であり、右三〇〇〇万円は平成四年四月、八月、一〇月、一一月の四回に分けて支払われたことなどを記載したお尋ね回答書を提出した。

(七) 本件訴訟継続後の平成七年一〇月一三日、関東信越国税局訟務官室の実査官であった馬場忠則が原告の収入金額を確認するために小松宅を訪ね、本件請負工事について質問したところ、小松は、取引回答書における支払金額の内訳は領収書に基づいて記入したこと、本件請負代金額について以前国税不服審判所職員に対して一八〇〇万円であると延べたことがあるが、それは原告からそのように言われたためであることなどを説明した。

2  右認定に係る各事実によれば、原告は、平成四年四月ころ、小松との間で、代金額を三〇〇〇万円とする本件請負契約を締結し、同年中に小松から契約どおりに合計三〇〇〇万円が支払われ、したがって、原告は小松から右同額の収入を得たものと認めることができる。

3  この点に関し、原告は、取引回答書及びお訪ね回答書における各支払内訳の記載に相違点があることを指摘して、これらをもって支払金額認定の根拠とすることはできない旨主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、小松は自ら取引回答書の支払金額の内訳を領収書に基づいて記入した旨延べているのであって、これが事実であることは、支払日ごとの金額が個別具体的に記載されていることからも裏付けられるのに対し、お尋ね回答書の記載は概括的であって、確実な資料を参照せずに記入されたことが窺われるのであり、両回答書の証拠価値を同等視し、その不一致を殊更に重視するのは相当でない。むしろ乙第二〇号証によると、小松は平成四年七月三一日に八十二銀行塩尻支店において同人名義の普通預金口座から七八〇万円を払い戻していることが認められ、これと取引回答書における右同日の支払金額とが一致していることにかんがみれば、右払戻金は同月分の支払に充てられたものと推認されるのであって、このことは取引回答書の記載内訳が真実であることの証左であるとみることができる。

4  また、小松は、原告の主張に沿い、小松宅の木工事だけを原告に請け負わせ、その代金として一八〇〇万円のみ支払った旨証言するけれども、右証言には次のとおり不自然、不合理な点が存し、これをそのまま措信することは到底できないものというべきである。

まず、小松は、本件請負契約書に代金額として三〇〇〇万円と記載したのは銀行から融資を受ける便宜からであったと証言するが、乙第七、第八号証及び弁論の全趣旨によれば、実際の借入額は一五〇〇万円であったと認められるのであり、契約書記載の金額との差異については同証言においても何ら合理的な理由が示されていない。また、小松は、前掲取引回答書に自ら三〇〇〇万円と記入した理由について種々弁疏するが、同人が実際の支払額と異なる金額を記入しなければならない事情は見当たらない。そして、小松は、原告に対し三回位に分けて合計一八〇〇万円支払ったとは証言するものの、そのような多額の金員についていついくら払ったか記憶が定かでないというような曖昧な供述に終始しているのであって、不自然極まりない。さらに、小松は、前掲お尋ね回答書について誰が記載したか分からない旨証言するが、乙第一一号証の記載内容を子細に検討すれば、小松やその妻の生年月日が正確に書かれているばかりでなく、本件請負打金の調達方法など、小松と親しい関係者でなければ通常知り得ない事情が記入されていることに照らせば、お尋ね回答書は小松又は同人方の内情を知る何者かが同人の意思に基づいて作成したことは疑いないというべきである。

次に、本件請負工事の状況に関する小松の証言について検討するに、電気・設備(上下水道)工事は、コマデンこと小松市弥に直接発注し、代金五七〇万円を同人に支払った旨述べるけれども、他方、乙第一八、第一九号証によれば、平成四年度中に右小松市弥が小松宅新築に関し受注した工事は電気配線・電話配線・テレビ配線工事と証明器具の取付けのみであり、その総代金は九四万二二八七円であったと認められるのであり、右証言との齟齬は看過し得ないところである。また、小松は、流し台、洗面台について、二木文吉に直接発注した旨証言し、二本もこれに符合して、自宅の新築に使う予定で平成四年にたまたま購入しておいた備品類を小松に売却した旨証言するけれども、二木文吉の証言するところによれば、自宅新築工事に着手したのは平成六年であって、平成四年当時は建築業者も未定で図面も作成されていなかったというのであり、その当時から右の備品類を用意していたというのはいささか不自然であり、これに、同証言によれば、二木文吉は、原告と子供のころからの知合いであり、その勤め先である渡辺家具店と原告とは取引があること、自宅の新築工事を原告に発注していることが認められることをも併せ考慮すると、二木文吉の証言をそのまま信用することはできない。さらに、小松は、塗装工事については妹の夫である安藤栄三郎に発注して代金約一〇〇万円を支払ったこと、建材については取引先の共和建材に発注して約五〇万円を支払ったこと、建具については自己費用約二〇〇万円を掛けて自ら工事を行ったこと、自己所有の木材を柱等に使用したことなどを証言するが、右証言は、各支払時期・回数、代金額等について曖昧であり、客観的な裏付けとなる証拠が存しないばかりでなく、乙第一三号証によれば、小松は、前記馬場実査官に対し、建具について約二五〇万円掛かったと右と異なる供述をしているのであって、右証言もまたこれを信用することはできない。

三  争点3(推計の必要性)について

1  本件税務調査の経緯について、証拠(乙第五、第六号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成五年四月から一一月にかけて行われた被告所部職員林秀昭調査官及びその後任者である春日哲調査官による所得税等の税務調査に際し、右の各調査官から帳簿書類等の提示を求められたのに対し、そのようなものは付けていないし見せるつもりもないなどと答えてこれを提示しなかった上、自己の申告に係る所得金額等についても合理的な説明をすることなく、終始非協力的な態度を取り、このような状況の下で被告が原告の事業所得金額を実額で把握することは著しく困難であったと認められる。

そうすると、被告が原告の事業所得の金額を推計によって算出したことはやむを得なかったものというべきであり、推計の必要性を肯認することができる。

四  争点4(推計の合理性)について

1  証拠(乙第一、第二号証、第一二号証、証人長谷川清)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告の事業所得金額を算出するに際し、収入金額に比準同業者の平均所得率を乗ずるという方法を採ったが、その基礎数値については、関東信越国税局長が被告に対しその所管する資料を調査して報告することを求める通達を発し、被告が所部職員に命じて調査した結果を同国税局長に報告するという方法により収集したこと、右通達においては比準同業者を選定するための条件として本件抽出基準が掲記されていること、被告の所部職員は、右通達に従い、松本税務署備付けの本件係争年分の申告者名義のうち、大工工事業又は木造建築工事業を営む者を選び出し、〈1〉の基準に関し同署備付けの右業者の所得調査カードの中から塩尻市の納税者で青色申告をしている者の青色申告決算書を取り出し、次いで、この中から〈2〉ないし〈4〉の基準に該当すると認められる者を選定し、さらに、同署備付けの不服申立整理簿等に基づき〈5〉の基準に従って所定の者を選別したこと、右の作業の結果、本件係争年分の比準同業者として一九名が得られたが、その売上(収入)金額、所得金額、所得率及び平均所得率は、別表二の各該当欄記載のとおりであること、以上の各事業が認められる。

2  右認定事実によれば、被告が本件において採用した推計方法については、その基礎資料は正確であり、個人である比準同業者の業種、事業場所、事業規模等は原告のそれと類似性を有し、比準同業者の抽出過程は、通達に基づいて機械的に行われており、恣意の介在する余地がないから、客観的な妥当性を有するものであり、比準同業者の選定件数も比較的多数であるということができる。

したがって、本件推計方法は合理性を有するものである。

そこで、原告の本件係争年分の事業所得金額について、被告の主張する推計方法によって算出すれば、前記説示に係る原告の収入金額に別表二記載の平均所得率である〇・一六九二を乗じた八二五万八六五二円となる。

五  結論

以上のとおり、本件更正の総所得金額は、被告主張に係る推計により算出した本件係争年分の総所得金額の範囲内であるから、本件更正には違法な点はなく、これに基づく本件過少申告加算税賦課決定にも違法な点はない。

よって、本件訴えのうち、総所得金額三〇二万六〇〇〇円、納付すべき税額七万一四〇〇円を超えない部分の更正の取消しを求める部分を却下し、原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 齋藤隆 裁判官 針塚遵 裁判官 島田尚登)

別表一

平成四年分 課税処分の経緯(申告所得税)

〈省略〉

別表二

大工工事業の同業者調査表(平成4年分)

〈省略〉

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